はじめに
このコラムでは熱中症に関するテーマを中心に連載していきます。
今回は熱中症・暑さ対策の基礎知識として、暑熱ストレインについて詳しく見ていきましょう。
暑熱ストレインとは?
これまで熱中症になり得る諸条件、特に温熱ストレスについて説明してきました。
この温熱ストレスによって生じる人体の温熱負担を暑熱ストレインといい、生理的暑熱ストレインと心理的暑熱ストレインの2つに分類できます。
1 生理的なストレイン:人体外部からの暑熱ストレスにより、体温上昇、心拍増加、発汗増加などの反応を指す
2 心理的なストレイン:暑さによる不快感を指す
したがって、暑熱ストレスからの反応を軽減するためには、生理的な側面と心理的な側面からのアプローチが必要となります。
生理的暑熱ストレインについて
生理的暑熱ストレインは、暑熱刺激(ストレッサー)に対する生理的・物理的反応であり、具体的には体温の上昇、心拍数の増加、発汗増加などによる体重の減少といった反応がみられます。
熱中症を予防するには、これらの反応をいかに把握し、そして軽減させていくかが重要となります。
それでは、どのように生理的暑熱ストレインを把握し、評価するのでしょうか?
ACGIH(American Conference of Governmental Industrial Hygienistsアメリカ産業衛生専門家会議)やISO9886によって、生理的暑熱ストレインの指標として、核心温、心拍数、発汗による体重減少量の指標提示しています。
熱中症を予防するには、これらの指標については、ただ理解するだけでなく、実際の作業者の作業中での暑熱ストレインを計測し把握することが重要であり、そのための方法も工夫しなければなりません。
生理的暑熱ストレインの指標と評価について
生理的暑熱ストレインとされる以下の項目について見ていきましょう。
ACGIHによると、以下の指標が下記の数値に達した場合、作業を中止するようにガイドラインを作成しています。
1)核心温(核心温とは、食道や直腸といった身体内部の温度のことで、体表面など末梢部の体温と異なり、恒温状態とされています。)
暑熱未順化作業者:核心温38℃
暑熱順化作業者:核心温38.5℃
2)心拍数
数分間継続して心拍数180-年齢(回/分)を超える場合や、作業強度がピークに達した後1分後の心拍数が120(回/分)以下に戻らない場合。
3)発汗による体重減少
1シフトの作業による体重減少が1.5%
これらの暑熱ストレインを軽減するためには、有効な冷却手段により作業者を冷却する必要があります。
心理的暑熱ストレインについて
心理的暑熱ストレインとは、いわゆる暑さによる「不快感」がこれにあたります。
生理的暑熱ストレインについては、生理学的な指標により、ヒトにより差異はあるもののある程度の客観的指標によって判断が可能ですが、心理的暑熱ストレインの場合、ヒトがどのように感じるかという点を指標化するため、ヒトによる差異は生理的不快感に比べ大きくなると推測されます。
それでも、激しい疲労感・めまい・悪心・場合によっては意識喪失といった状態を認めることができ、ACGIHでも指標化しており、心理的ストレインの評価は熱中症を予防するにあたり重要といえます。
生理的暑熱ストレインの評価も心理的暑熱ストレインの評価も、熱中症という、一見わかりにくい症状を予防、早期発見、早期対処できるようにする上で重要な手がかりになるため、酷暑現場では、しっかり評価できるようにすべきです。